恋愛セミナー91【藤壺】瀬戸内寂聴さんの「藤壷」、丸谷才一さんの「輝く日の宮」を相次いで読みました。どちらも源氏と藤壺の初めての逢瀬に繋がる物語です。 源氏物語をモチーフにした香水「朧月夜」 「桐壺」の次に「輝く日の宮」の帖があり、失われてしまったことは 文献にも記されているそう。 第一帖「桐壺」では、源氏は十二歳で葵上と結婚、 第二帖とされている「帚木」では源氏は十七歳になっていて、 恋の達人として、すでに藤壺とも関係を持っている。 幼かった源氏がどのように場数を踏んできたのか、失われた5年ともいうべき 「輝く日の宮」を描いてみたいという思いは、源氏に関る作家の方々には 自然に生まれるものなのでしょう。 美輪さん&寂聴さん「ぴんぽんぱんふたり話」 丸谷さんの「輝く日の宮」は、ある大学で教鞭をとる女性・安佐子の私生活と、 源氏にまつわる紫式部の心もようが重層的に織り成す物語。 「輝く日の宮」の帖がなぜ失われたのかが道長と紫式部の関係を通して考察されています。 丸谷才一原作「女ざかり」 これを読んでいたのが、ちょうど学生時代の欧州旅行のことを 日記に書いていた時期。「欧州鉄道の旅」 物語は東西冷戦のころから、90年代の世界情勢も追っていて、 当時の様子を日記と合わせて追体験することもできました。 源氏物語の成立の過程、まず栄光の歴史としての「藤裏葉」までが書かれ、 「玉鬘」十帖、「若菜」を始めとした「女三宮」の物語でひっくり返してゆくさまも。 道長との寝物語が、生かされた帖も多いというのがまた面白い。 「紫式部日記」の解説書には道長と式部が愛人関係にあったことを 否定するものもあるのですが、系譜にもこのことは、はっきりと書かれているそう。 源氏のハイウェイ「痛快!寂聴源氏塾 」 ラストは安佐子が再現する「輝く日の宮」の帖。 夢で藤壺との逢瀬をした源氏が、それを実現するべく、 藤壺の側近である王命婦を篭絡してゆく。 濃厚な本編のあとに、余韻を残す物語になっています。 瀬戸内さんが「藤壺」を三分の一ほど書き進めたとき、ちょうど この丸谷さんの小説が刊行されたとか。 本当におもしろく、一気に読んでしまったと。 きっとシンクロをお感じになったでしょうね。 なんとこの作品も「【丸谷才一 訳】 ポー名作集」 「藤壺」は、源氏と葵の上との結婚当夜のこと、六条御息所とのなれそめ以前のこと、 王命婦の篭絡、藤壺のもとへ偲んでゆく様子などで構成されています。 特に王命婦と源氏との関係は、瀬戸内さんならではの筆致。 藤壺との逢瀬の、心身のアンビバレンスな描写は「いよよ華やぐ」が彷彿と。 新たに再現された「藤壺」の帖を、古文にも訳して載せてあるのも興味深いこと。 引き比べると、具体的な描写などがさらっと省略してある部分も。 大抵の訳者の方は、ご自分の言葉で行間を補っていらっしゃるのですが 瀬戸内さんの「源氏物語」訳は原文に非常に忠実、しかもわかりやすいのです。 それでも、源氏を訳しながら、他の訳者の方たちのように、小説家として 書き加えたかった部分もきっとたくさんあったことでしょう。 失われた「藤壺(輝く日の宮)」を埋めることで、瀬戸内さんの創作魂が またひとつ満たされたことと思います。 瀬戸内寂聴「源氏物語」 源氏を縫うように知る恋の手だれが描いたふたつの物語、 よろしかったら、お手にとってご覧になってみてくださいね。 ジャンル別一覧
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